手描きの味わい

関東へ来ています。

昨日、新宿センタービルの17階にある、ギャルリータイセイへ行って、
『大熊喜英(おおくまよしひで)の建築』
という展覧会を観てきました。
僕はこれまで大熊氏のことはほんど知りませんでしたが、滋賀県の友人・Mさんがこの展覧会のことをおしえてくれたので、ぜひ観たいと思い足を運びました。

大熊氏(1905~1984)は、日本の伝統的な民家の調査・研究に若いときから関わっていたそうで、民家のデザインを採り入れた近代的な和風住宅の設計を数多く手がけられ、その作風は一世を風靡したそうです。
(知りませんでした)

会場には、大熊氏の手による図面・スケッチなどが数多く展示されていました。
大熊氏が活躍されたのは今から数十年前ですから、もちろん全ての図面は手描きでした。

しかし大熊氏の図面は、手描きは手描きでも、定規を使わないフリーハンドの線だけで構成された図面なのです。
丁寧に描かれたそれらの線には、やはり深い味わいがあり、すっかり魅了されてしまいました。

今はうちの事務所でもコンピューターで図面を描いています。
しかし、
「手描きに戻そうかなぁ~」
と本気で考えてしまいました。

確かにコンピューターで図面を描く利点は大きいので、全ての図面を手描きに戻すつもりはありませんが、コンピューターで図面を描くことの弊害も実は大きいのです。

その弊害として一番大きいのは、スケール感覚が薄れることです。
寸法が一番重要な、建築家という職業にとってこれは致命的です。
正直なところ、僕のスケール感覚もかなり鈍ってきています。

ここで言うスケール感覚というのは、木材の大きさを(定規をあてずに)目で見ただけで、それが何ミリ(センチではありません)あるのか?ということがパッとわかる、という能力です。

こういう能力は、常に現場で木材に触れて仕事をしているか、または原寸(実物大)の図面を描いていると、長年かけて自然に身についてくる能力なのですが、コンピューターで図面を描いている限り、絶対にこういう能力は身につきません。

もう一つの弊害は、図面一枚一枚のありがたみや存在感が薄れることです。

手描きの図面は、一枚一枚にそれぞれ個性やクセがあるので、一目見ただけでも鮮明な画像となって記憶の中に残ります。
しかしコンピューターで描いた図面は、文字も線の太さも均一ですから、手描きの図面に比べるとどうも記憶に残りにくく、存在感も薄くなってしまいます。

僕が建築家として売っているものは、図面ではなくコミュニケーションやコンサルティングを含めたトータルのサービスなので、必ずしも図面に味わいを求めなくてもいいのでしょうが、やはり図面を受け取るクライアントの立場に立って考えてみれば、味わい深い図面を渡された方がきっとうれしいのだろうなぁ、と思うのです。

スタッフにはきっと反対されるでしょうが(笑)、これからは手描きの図面を増やしていこうと考えるようになりました。
まずは自分で描く図面から始めればいいことですから、そんなに難しい事ではありませんけどね。

Mさんのおかげで、いい機会に恵まれました。
どうもありがとうございました。

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4 thoughts on “手描きの味わい

  1. ウリエル

    こんばんは。ウリエルです。
    私も大熊さんという方はしらなかったけれど、
    コル→日本の古民家→英国民家の流れを汲んでる方がいたんだ、ということに驚きました。日本の住宅について造詣の深い、黒沢隆、馬場璋造、藤森照信らが紹介冊子を発行してるということからも、この方の注目度が理解できます。
    余談ですが、ちなみに私は興味の変遷は
    コル→英国民家・北欧民家→日本建築といった順で、これからは日本の文化にどっぷりつかりたいという気持ちでいっぱいです。
    どうぞよろしくおねがいします。
    それから、手書きの図面に再びめざめつつあるという佐藤さんにも驚きました。確かに、書き直すの大変ですが誠意は伝わりやすいですし、設計の本筋に余計なお客さんの情報に流されにくいということもあります。
    ではまた。

    返信
  2. さとう

    ウリエルさん、コメントありがとうございます。
    僕は英国や北欧の民家にあまり明るくないので、これから少し勉強します(笑)。
    民家というのは、その土地の気候を基にして考えないといけないので、本を観ただけでは理解できないのでしょうが・・・。
    北欧にはぜひ行ってみたいと思っています。
    僕には、アアルトの建築の良さがどうしても腑に落ちないのですが、きっとそれも現地で気候・風土を感じた事がないからなのだろうと思います。
    北欧では、木の使い方もじっくり見てみたいポイントですね。
    これからもどうぞよろしくお願い致します。

    返信
  3. ウリエル

    いえいえ、佐藤さん。
    私は建築にまだ未練があり
    今日に至っていますが、
    自分の生きてる地域と全く関係のない
    外国の民家の普及に時間をとられてしまって、
    そのスタイルで人の家を建てても何の
    喜びもなく、地に足もつかなかったよ、
    ということをいいたかったのでした。
    佐藤さんは今のご自分の
    スタイルで家を完成させたとき
    湧き上がってくる喜びはありますか?

    返信
  4. さとう

    >佐藤さんは今のご自分の
    >スタイルで家を完成させたとき
    >湧き上がってくる喜びはありますか?
    う~ん、僕の場合はそういう満足感には重きを置いていません。
    僕が一番喜びを感じるのは、クライアントが喜んでくれたり、満足してくれたりすることに対してです。
    自分自身のデザインした結果(=建物)に対して、(クライアントではなく自分が)満足できるものができたかどうか?という点に関しては、僕の関心事においては正直二の次です。
    誤解のないように言い添えておきますが、僕は建物のデザインに関心がない、ということではありませんよ。
    あくまでも、
    「もっと大切なものが他にある」
    と考えているだけのことです。

    返信

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