能登の震災

4/5(木)、6(金)の2日間に渡って、石川県輪島市へ行ってきました。

能登震災の被害に遭われた方に対して、何か支援ができないだろうかという趣旨で、全国から集まったNPO法人・日本民家再生リサイクル協会会員のボランティアの有志メンバー(総勢14名)が、地元在住の建築士の方の呼びかけに協力する形で簡易の民家診断を行いました。

4/5は輪島市門前町という、一番被害の大きかった町へ行きました。
地元では30件くらいの診断依頼があり、手分けして順番に調査を行っていきました。



今回の活動の目的は2つ。

1. 倒壊の危険がない古い民家が、解体撤去されてしまうのを未然に防ぐこと
  (本当に危険なのかどうかを判断する)
2. このまま住み続けても大丈夫なのかどうか?という不安を抱いている
  住民のみなさまの不安を(簡易診断をすることで)取り除いてあげること



伝統構法で建てられた日本の古い民家は、大きな地震のエネルギーを受けると傾きます。
(↑傾くのは正常な反応です。
  誤解されやすいのですが、傾いたらもうダメ、ではありません)
たとえ傾いても限界を超えていなければ、再度建て起こし、耐力要素(土壁や仕口)を復旧してあげれば、元通り安全になります。
そして、むしろ繰り返し襲ってくる大きな地震エネルギーに対しては、傾かない在来工法よりも伝統構法の民家の方が粘り強く安全であることが科学的な実証実験により証明されています。
(話が非常に難解になるので、ここでは詳細な説明は省きます)



阪神大震災のときもそうでしたが、木造だから弱い、とか
古いから弱い、とか、いろんな間違った報道がなされていますが、
木造/鉄骨造/鉄筋コンクリート造に、構造的に強い/弱いの順位は全くありません。

地震に強いか弱いか、という性能は、
○ 個別の建物の耐震要素の配置(←主に設計による問題)
○ 建物がつくられたときの施工精度(←主に施工による問題)
○ 竣工後のメンテナンスに不備はなかったか(←住まい手の管理の問題)
が複雑に絡み合って決まってきます。



これら3つの要素のうち、どれが欠けてもダメです。
たとえば、

○ いくら最初の設計が(耐震上)良かったとしても、
  手抜き工事(←施工)が行われては意味がありません。
○ 現場でいくら施工管理がきちんと為されていても、
  当初の設計に偏りがあれば安全な建物にはなりません。
○ 設計も施工管理もきちんと為されていても、耐用年数を超えて
   メンテナンスを怠れば、雨漏りなどが発生して腐朽や劣化を招き、
   耐震性能が不十分になります。

という具合です。
おわかりですよね?



今回のボランティア活動では、僕は2軒のお宅を調査しました。

最初に調査させてもらったお宅の奥様は、ここ数年でご家族を亡くされた後、今回の震災に遭われた方でした。
最初はとても不安な表情をされていました。
この家にこのまま住み続けても大丈夫なのかどうか、ぜひ専門家に見てもらいたかった、とおっしゃっていました。

奥様がお一人でお住まいになっていた家は築後100年以上経過した伝統的な民家でしたが、素人が見ても分かるくらい傾いていました。
柱は傾き、壁にはクラックが入り、建具は開かなくなっているところがたくさんありました。
それを少しずつ調べていきます。
柱の傾き具合、壁の壊れ方、柱や差鴨居の仕口の状況、家全体の荷重の受け方(柱の配置)、構造材の大きさなど。

結果的には、この家は
○ 層間変形角1/35~1/40 rad の傾き(←安全圏内)があったが
○ 柱が太く(5寸角)
○ 無理に間口を飛ばしていないこと
○ 土壁が破断して地震エネルギーを吸収してくれたこと
○ 構造材の仕口に裂傷や腰折れなどは見られなかった
ことなどから、簡易診断では安全ですとお話しました。

ただし、
○ 破断した壁は復旧してあげること
○ 傾きがこれ以上進まないように、応急的にでも仮筋交いなどを
  入れてあげること
  (最終的には、建て起こしをして傾きをきちんとなおすこと)
などを行ってくださいとご説明しました。



この家の調査は当協会のメンバーと2人で手分けして一緒に行ったのですが、調査・診断が終わった後は、奥様はこちらの説明に深く納得され、本当に安心された表情をされていました。
それを見て、僕らも役に立てたことを深く感じ、輪島まで来て本当に良かったと思いました。
(註:ボランティアは全員交通費・滞在費等の援助は受けていません。
   当たり前ですが無報酬です)



簡易診断だけでは完全なサポートとは言えません。
何よりもその後のサポート、耐震補強がきちんと実施されることを確認し、安全な状態になるまで責任を持って見守ってあげることが本当は一番大切です。

しかし、そこは地元の方に委ねました。

今回の我々にできることは、(専門家の)人手が足りない現地の状況下で、専門知識のある人間が的確な診断を行って、より多くの皆様の不安を取り除いてあげること、そして民家を守ることに微力ながら貢献できたのではないかと感じました。

そして、北は北海道から南は和歌山まで、さまざまな地域から集まったメンバーでいろんな課題について話し合い、これからもこういう活動を続けていこうという結論に落ち着きました。



まだまだ課題は多く、自分たちに協力できることの限界も感じますが、それでも少しずつ前進しています。
自分にとっても非常に学ぶことの多かった2日間でした。

能登では他にも学んだことがありましたので、それはまた次回。
どうぞお楽しみに。

長くてわかりにくい文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。

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